【JICDAQ品質認証事業者インタビュー】
株式会社 東洋経済新報社
デジタル広告の品質課題を解決するための認証機構として設立された「一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」は、2023年11月に初年度の認証付与から3年目を迎えます。広告主、広告会社に続き、今回は媒体事業領域で認証を取得している(株)東洋経済新報社・佐藤朋裕氏にお話を伺いました。
ビジネスプロモーション局 局次長
佐藤 朋裕 氏
-佐藤様の経歴と、現在の業務について教えてください。
当社に入社する前は、ビジネス系出版社で20年以上勤務していました。同社は、出版社の中でも早くからデジタル化に力を入れており、私は紙とデジタルの広告営業を担当していました。2012年頃、東洋経済オンラインは、サイトリニューアルを行いアクセス数が大きく伸びていましたが、広告収益に繋がらないという課題があり、デジタル広告に精通した人材を欲していました。その頃、私は転職を考えており、成長段階の当社に興味を抱き、入社しました。
入社後、主に東洋経済オンラインの広告営業や、広告の商品設計、広告戦略の策定などデジタル広告に関するあらゆる業務を担当してきました。現在は、ビジネスプロモーション局の局次長として、デジタル広告全般を統括する立場にいます。
-JICDAQ認証を取得した理由を教えてください。
当社は、「健全なる経済社会の発展に貢献する」という理念に基づき企業活動を行っており、広告主様に安心してお使いいただける広告媒体でありたいという強い意志を持っています。したがって、デジタル広告市場の健全な発展を目的に設立されたJICDAQの取り組みに全面的に共感し、社会的責任から認証を取得することは必然でした。
JICDAQは、ブランドセーフティと無効トラフィック対策の認証分野がありますが、出版社系メディアである当社は、違法・不適切なコンテンツを作成することも、アドフラウド等の不正なトラフィックを発生させることもありません。それにも関わらず、JICDAQ認証を取得した理由は次のとおりです。
ブランドセーフティについては、当社がニュースメディアとして取り上げる事件・事故や国際紛争などのコンテンツが、広告主様に掲載面としてふさわしくない、ブランド毀損につながると判断される可能性があります。無効トラフィックについては、検索クローラーやbot等、広告成果対象にならない無効なトラフィックが発生する可能性があります。当社は、これらの問題に対応しておりますが、広告主様から、しっかりとした対策を講じている安心安全なメディアであると評価をいただくために、認証を取得しました。
-広告主が安心して出稿するために、行っている対策について教えてください。
当社は、2017年からアドベリフィケーションツール「IAS」を導入しています。同ツールを利用して、どれだけ広告が見られたかを示すビューアビリティーの計測や、広告主様が不適当と感じるストレートニュース等のコンテンツへの広告配信の除外、不正トラフィックを含む無効なトラフィックの検知除外を行っています。2020年からは、広告監視ツール「GeoEdge」も導入しました。同ツールによって、広告クリエイティブとランディングページをチェックし、不適切な広告(著しく汚い画像や詐欺的な内容の広告等)を事前にブロックしています。当社が直接取引を行う広告については厳格な審査をしていますが、運用型広告では不適切な広告が流れてきて掲載されてしまうことがあります。広告主様にとっては、そういった広告と自社の広告が同じページに掲載されることを不快に感じるかもしれません。当社としても、汚い広告が掲載されることによって東洋経済オンラインのブランドイメージが損なわれてしまいます。これらを防ぐためには、広告クリエイティブのチェックは不可欠といえます。
-今後の取り組みについて教えてください。
サードパーティーデータがブラウザで使用できなくなる、いわゆるクッキーレス問題への対応を重要視しています。当社は、クッキーレスになっても、効果の高い広告サービスの提供を担保し続けるために、次の2つのことを考えています。
1つ目は、自社で保有するファーストパーティーデータの活用です。東洋経済オンラインでは、登録会員を含む月間約2,500万ユーザーのデータを保有しています。このデータをこれまで以上に有効活用できる広告商品を、今後続々とリリースする予定です。2つ目は、コンテキストターゲティングによる広告配信です。これは、Webサイトの内容を解析することで、掲載されているコンテンツの文脈にふさわしい広告を配信する仕組みです。この仕組みにより、読者の興味・関心にマッチした広告を配信することができます。当社は、読者のニーズに適した広告を配信するために、この技術の精度を高める強化策を準備しています。これら2つの取り組みを行い、より効果的な広告サービスを提供していきます。
-デジタル広告業界の課題についてどうお考えですか。
従来の紙メディアは、広告掲載面が限られており、人の目が行き届いていました。一方、デジタルメディアは、掲載面が無限にあるため、従来では想定できないような問題が発生しています。その中で、JICDAQがブランドセーフティ・無効トラフィック対策について取り組みを開始したことにより、改善の方向に向かうと思われますが、依然として課題があります。具体的には、しつこいターゲティング広告、不快な広告、正体の怪しい商品広告、詐欺広告などです。こうした課題を解消しデジタル空間に「善い世界」を築くことが、健全な経済社会には必須であり、JICDAQ加盟社全体の責務だと考えます。「善い世界」を築くためには、広告主、広告会社、媒体社がそれぞれの役割を果たす必要があります。広告主は予約型広告やPMP(媒体社と広告主を限定した広告取引市場)を活用して掲載面を事前に把握すること、媒体社は出稿いただく広告にふさわしい面を用意すること、広告会社はその両社を的確につなぐことです。この当たり前のことができるようになれば、デジタル広告は健全化に向かい、まだまだ市場が拡大する余地があると考えています。
-最後に、JICDAQやデジタル広告業界に対し、どのようなことを期待しますか。
先ほど申しましたが、広告クリエイティブの問題への対応は重要です。このことは、デジタル広告業界の健全化のためにも、業界として対応する必要があると思います。今後、広告を審査する運用体制について、JICDAQ認証の対象にすることを検討いただければと思います。
もう1つ重要なことは、デジタル広告市場の健全化のために、JICDAQの取り組みをより多くの広告業界関係者に知っていただくことです。1社でも多くの広告主様が、JICDAQの登録アドバタイザーになり、JICDAQの活動に賛同いただくことを願っています。私たち出版系メディアに限らず新聞社系・テレビ局系を含むマス系メディアは、良質なコンテンツを作るために人材・時間等、相当のコストをかけています。しかしながら、デジタルにおいては、そうでないメディアも数多く存在しています。運用型広告は、効果効率の面において大変有効ですが、海賊版サイトのような悪質なメディアに広告費が流れる可能性があります。良質なコンテンツを提供するメディアに広告収益が渡るよう、広告主様は予約型広告を利用するなど、積極的に一次メディアと取引していただきたいと思います。それが、良いコンテンツを作成するメディアを支えることにつながります。良いメディアが存在し続けることで良い読者が生まれ、やがてはその読者が広告主様の商品の購買者になります。このサイクルが強固なものになり、将来も維持されることを期待しています。
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