「デジタル広告市場における、出版社メディアの可能性」
長崎亘宏氏(講談社 ライツ・メディアビジネス局次長)
日本ABC協会・雑誌ブランド指標WGリーダー
雑誌業界を取り巻く話題
2021年の雑誌業界の話題として、まず、メディア環境研究所が調査しているメディア総接触時間(メディア定点調査)があります。総接触時間自体は増加しているものの、雑誌に関していえば、接触時間、タイムシェアともに微減傾向にあります。次に、雑誌市場の再編。コロナ禍によるライフスタイルの変化で、雑誌ビジネスは厳しい局面に置かれています。この1年間で、100誌に及ぶ休刊があったといわれており、ファッション誌、趣味誌、ビジネス専門誌、エリア情報誌など様々なジャンルにも影響が及んでいます。その一方、それらの雑誌が新たに、デジタル基盤のメディアとして再スタートするケースも多くみられており、その進化に対する広告主サイドの期待も高まっています。このように、プリントメディアとデジタルメディアの相関関係は、「共存、代替」など様々なものに変化しています。
また、20年度の日本の広告費におけるインターネット広告の規模が、マス4媒体の総広告費に並んだこともあげられます。そのなかで、雑誌広告は大きく落ち込み、シェアは2%となりました。しかし、インターネット広告費におけるマス4媒体由来のデジタル広告費では、雑誌由来のデジタル広告費は対前年比110%の成長で、マス4媒体由来のデジタル広告費全体で実に56%のシェアを占めるなど、雑誌広告のデジタルシフトが最も進んでいます。
これを踏まえて、雑誌広告の価値を再編すべく、雑誌広告効果測定調査「M-VALUE」を核に、大きくデジタルシフトさせました。参加出版社へ共通計測タグを導入。電子雑誌ではNTTドコモ、ウェブメディアでは大手広告会社とそれぞれ、ビデオリサーチとデータ連携させながら、新指標の開発を進めています。今後は、ビークル間比較+メディア内比較(本誌とデジタル)+メディア間比較(デジタルメディア全体)がより重要になっていくと思います。
デジタルシフトにより拡張する「雑誌」の定義
このような時流に先立ち、日本ABC協会では、プリントメディアの変化を踏まえ、出版社メディアの価値を再構築することを出発点とし、16年から、雑誌メディアの定義を変え、本誌に加えてウェブメディアやSNSの公式アカウント数等を、雑誌ブランド指標として評価の対象としました。その後、雑誌レポートを進化させることを目的に、17年、雑誌ブランド指標WGが発足、18年にはヤフーなどの大手プラットフォーマーと連携し、PV数を自社と外部配信に分けて公開するなど、出版社メディアが持つコンテンツを再評価するため、指標のアップデートを進行してきました。現在では、加盟する出版社28社、合計121ビークルが4半期でデータを公開、トータルの月間PV数は約66億に達しています。この数字は決して小さなものではなく、この動きは他の業界に先駆けたものとなっています。今後は、質の評価やコンテンツ情報の充実など、雑誌メディアならではの特性を追求していく必要があります。
デジタル領域における新たな価値
デジタル領域における新たな価値とは何か。それすなわちコンテンツの深さを計測することです。DXを通じて、視聴者や読者の行動量を計測することで、コミュニティの価値をさらに高め、リーチやフリークエンシーなどの量や質だけではなく、ロイヤリティやエンゲージメントなどの深さをアピールする必要があります。この考えを出版社のビジネスに当てはめると、従来の価値では、ターゲティングは個人、ゴール設定はリーチです。しかし、我々は従来のメディア価値に加えて併走する「“コミュニティ”という付加価値」があり、ゴール設定はリーチの先にある共感や信頼です。デジタル領域で雑誌メディアは、カタチや届け方が変わっても、“コミュニティ”が存続しています。
新たなメディアの定義
今回、雑誌ブランド指標WGは、新たなメディアの定義として、「ナラティブ化する装置としての出版社メディア」を提案したいと思います。出版社メディアがプランニングにおいて担う役割は、メディアブランドへの信頼と、コンテンツ体験でコミュニティを形成し、企業・ブランドとユーザーを文脈でつなぐ、いわゆるミッドファネル効果や、一方的なストーリーテリングではなく、ユーザーを巻き込んだ対話、すなわちナラティブな状況を生み出すことにあります。さらに、OMO(Online Merges with Offline)構造でリアルでのアクションも喚起し、最終的には、広告主の求める成果と対価を提供する役割が求められていくと思います。
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