「TikTokをブランド戦略にとり入れたいけど、実は全くの初心者で…」―ビジネスでの活用が急速に広がり、担当者もキャッチアップに不安があると言われるショート動画マーケティング。
本年7月18日開催の勉強会では、まず、熱を帯びるデジタルコミュニケーションの基礎知識について、株式会社フロンテッジ・河原敬士氏(Content Planning Director)を講師に迎え、続いてお招きした、studio15株式会社・吉田健生氏(セールス事業部リーダー)には、ショートドラマのマーケティング活用法をお話しいただきました。全会員社を対象に開催した本勉強会には648人が参加。60分間の濃密なウェビナーの要旨を掲載します。
「続・まだ間に合う!教養としての縦型ショート動画」
■生活者とマーケターにギャップ?―成長するショート動画市場を直視する
生まれては消えるマーケティング界隈のバズワードの数々。その中で今、デジタルコミュニケーションの舞台中央に躍り出ているのが「縦型ショート動画」です。某プレスリリース配信サイトで「ショート動画」と検索すると、その表示件数は上限1万件に達し、「大谷翔平」の検索結果2100件を優に超えています。また、2023年から、グーグル検索の結果にショート動画が加わり、24年からはスマホに「ショート動画タブ」が実装されたことからも、ユーザーニーズの高まりは明白です。一方で、マーケターの意識調査を覗くと、ショート動画について「商品購入のきっかけにはならない」「Z世代にしかリーチできない」と後ろ向きの見方が多く、生活者と意識のズレが生じています。そのため、マーケター側は、ショート動画が想像以上に浸透していると考えるべきかもしれません。目下広告会社は部署を新設したり、あるいはパートナー企業とソリューション開発・発信に取り組んだりと、間違いなく成長市場にあります。
テレビ・映画に代表される横型動画は、複数人視聴を前提としたフォーマットで、長尺コンテンツを覚悟して視聴するのに対して、「縦型」となると、ひとり手に取るスマホで、短尺動画を何となく眺めるイメージです。そうした縦型ショート動画のプラットフォームには、TikTok、Instagram Reels、YouTube Shortsなどがありますが、投稿量の多さやトレンドの発信源として見比べると、現時点ではTikTokが頭ひとつ抜けているように感じています。
■フォロワー0人でもバズる―潜在層への有効なアプローチ
誰かの投稿を契機に、生活者が気付いていなかった商品・サービスの価値に脚光が当たり、人々の強い欲求を喚起する―この「TikTok売れ」と呼ばれる現象は、21年のファイブミニから顕著になり、毎年ヒットを生み出しています。
TikTokには「おすすめ」「フォロー中」「探索」という3つのタブがありますが、8割以上のユーザーは、おすすめタブを見ています。同タブにはフォロー中の動画も流れてくるため、全ての動画を見逃すことなく合理的です。プラットフォームは、そこに見てほしい動画を配信するため、新規リーチには最適です。
ブレイクダウンして、バズる仕組みに着目すると、フォロワーが0人でもバズる可能性はあります。なぜなら、まず、投稿動画はクオリティを問わず必ず再生され、ユーザーが増加している今でも、TikTokであれば1日100回程度は再生されます。そして、平均視聴時間や視聴完了率などの評価項目(シグナル)をもとに、アルゴリズムが「この動画イケてる!」と判定したら、反応した視聴者と同じ属性の人におすすめされます。つまり、再生が約束された人たちに配信されるため、雪だるま式にバズる構造になっています。再生回数の目安は、1万再生で「まわった」、10万が「バズった」、100万は「大バズり」、1000万なら「神バズり」、1億まで達すると世界規模でバズったという具合です。
初めて動画を作るとなれば、誰も見たことのない動画でバズらせようと考えがちですが、これでは99%失敗します。成功するには、先人が創ったカテゴリーの中で勝負しなければなりません。美容・健康、ファッション、アニメ・漫画など、プラットフォームごとの動画カテゴリーには濃淡こそありますが、基本的に似通っており、すでに出尽くしています。だからこそ、魚(視聴者)がいる漁場で釣りをすることが大切です。
■等身大の投稿で共感を―チャレンジ系クリエイター
起業、ダイエット、恋愛、投資など、自らのチャレンジを機にTikTokを開設するクリエイターが増えています。成長過程を公開することで共感を呼び、SNSで着火しやすくなります。シンガーソングライター・乃紫(のあ)さんのブレイクなどを見ても、コメントを通じて至近距離で推し活できるので、応援する側が熱を上げる理由はよく分かります。いまや、TikTokはオーディションプラットフォームの側面を持ち、なえなのさんや影井ひなさんなど、スターが次々と生まれています。
また、著名人のTikTokデビューも目立ちます。例えば、白鳳さんは日本相撲協会を退職した1時間後に早速アカウントを開設して話題になりました。なぜ、皆さんがTikTokを選ぶかと言えば、やはり、“フォロワー0人でもバズる”からではないでしょうか。
■企業のTikTok公式アカウントも賑やか
企業の活用も目立ちます。22年頃までは中小企業のアカウントが大半を占め、デジタルに親和性がある社員さんの人柄や一芸に依存した運用が多く見られましたが、23年頃から大手企業が参入すると、コンテンツの質が格段に上がりました。企業の仕組みとしてアカウント運用されるようになったと言えます。そして今、大手企業でも、一般クリエイターと同じ目線や質感で、企業のありのままが覗けるようなアカウントが増えています。CM的映像は一切なしで「やってみた」や「ダンス」のようなコンテンツが多く登場しています。例えば、ANA様は、全社総動員くらいの勢いで、次々に社員さんが登場し、しかも皆さんが本当に楽しそうな笑顔で踊っていて、伝わってくる人柄や社風から、企業にも好感が持てます。
また、ユニ・チャーム様が、ソフィ公式TikTok『さらけだ荘』で、生理をテーマに展開して共感を集めているように、従来のショート動画にはなかったシリアスなテーマを、企業がSNSライクに意訳変換して取り上げる例も見られます。
■トレンドを効率よく把握するために
キャッチーな音楽や手軽な振り付けでユーザーに広がっていく「meme(ミーム)」は、巨大なうねりになってきたと感じています。「クラクションダンス」や「エッホエッホ」などご存じなければ、ぜひ検索してみてください。こうしたトレンドは、TikTokを毎日1時間視聴すると体感できます。時間がなくても、各種アワードで大局を掴んだり、レコチョク「TikTok最新ヒットソング」でサビの音源を手早くチェックしたり、と方法はあります。加えて、なえなのさんのフォロワ―になると、すぐに話題のミームをやってくれるので、流行に乗り遅れません。
また、自社がバズっていないか検索することも欠かせません。昨年、私が担当している明星食品様の『ぶぶか油そば』でも、自然発生的にTikTok売れが起こりました。自社あるいは競合の商品・サービスを検索してみると、煙立つ様子に流行の兆しを見つけることができるかもしれません。
■クリエイティブの在り方は進化中
マーケターがショート動画に取り組むには、①純広出稿②インフルエンサーのPR投稿③自社SNSアカウントの投稿、といった主に3つがあります。初めてショート動画を試みるなら、ストックできて、かつ各プラットフォームで使用できる自社アカウントの投稿をお勧めします。マインドシェアを上げ、店頭で自社商品を選択してもらうための一手として、縦型ショート動画はとても有効だと思っています。
クリエイティブのツボは、①冒頭アテンション②高速カット/情報過多③SNSライクの3つに集約されます。ショート動画の冒頭はYouTubeのサムネイルと同じです。短尺だけに何よりも出だしが肝心です。また、カットを多用するなど「転・転・転・結」の構成で、とにかく飽きさせない工夫も求められます。そして、CM的動画ではなく、ユーザー目線かつSNSライクであった方が、エンゲージメント向上への近道になります。
「『次が気になる!』で、2倍のブランドリフト効果!
TikTokショートドラマのマーケティング活用法」
■企業だけではなく自治体も―studio15が手掛けるショートドラマ
弊社は、2019年からTikTokに特化した事業を展開しており、広告代理店とクリエイター事務所、さらには制作会社の顔をあわせ持っています。キャスティングからクリエイティブを一気通貫し、広告運用もうまく活用してブーストできるような施策設計を意識しています。
目下弊社は、群馬県のご当地ゆるキャラ「ぐんまちゃん」のTikTokアカウントの運用代行を担っており、同県運営のアカウント「tsulunos」では、そのコンテンツとして、いくつかショートドラマを手掛けています。例えば「別れを迎えそうなカップルが、群馬県の観光地を巡る中で絆を深めていき・・・果たして男女ふたりがこの先仲直りできるのか」というようなストーリー性を持たせ、かつ映像やセリフを通じて、当地の魅力を自然に訴求できるドラマを制作し、オーガニックで600万回以上再生されました。コメント欄には、ドラマへ好意的な感想だけではなく、観光地へのポジティブな反応も多数ありました。視聴者の認知と理解に確かな手応えを感じていたところ、今年、群馬県が、上半期トレンド大賞・特別賞を受賞されたという嬉しい知らせが届きました。
クライアント様が公式アカウントで、ショートドラマの配信をお考えの場合には、複数本展開することをお勧めしています。アカウントを継続視聴する動機を喚起し、フォロワーが増えやすくなります。弊社もPRを兼ねて『ドラマみたいだ』というショートドラマアカウントを運営し、制作陣は日々腕を磨きながら、知見を蓄えています。最近開設したアカウントでは、渋谷の女子高生の日常をリアルに再現するドラマに挑戦しており、コスメやアプリといった商材との相性の良さを実感するとともに、まだまだ可能性が拓けると感じています。
■エンタメだけではない ―TikTokは消費行動を促す
YouTube Shorts、Instagram Reels、TikTokなど、ショート動画の媒体は多様ですが、中でもTikTokは、AIのパーソナライズが非常に優れています。アプリを開けば、次々と自身の興味・関心に沿ったコンテンツジャンルがおすすめに表示され、潜在的な興味・関心が刺激されます。そのため、フォローしているアカウントのジャンルに依存しやすい他媒体と比べて、TikTokは新規層にアプローチしやすいメディアと言えます。
こうした背景から圧倒的トラフィックが生まれています。TikTokの1日の平均視聴時間は年々増えており、今やYouTubeと同水準に達しています。そして、10~20代の若者メディアと思われがちですが、ユーザーの年齢層は確実に広がっています。直近1年において利用開始した皆さんの横顔を覗くと、30代女性が全体の9.7%、40代女性が11.7%を占めており、購買力のあるユーザー層に厚みが出ています。エンタメだけではなく、消費者の購買行動を促進し得るTikTokは、広告にも好影響をもたらしています。
TikTokはコンテンツをチェックするSNSではなく、コンテンツを“見る”エンターテイメントプラットフォームです。他媒体よりもブランド親和性や購買意欲の向上において、1.5割増の効果が期待できるというデータがあります。エンタメを通じたクリエイター主導のマーケティングだからこそ、ユーザーの気持ちが動き、市場も動いていく媒体になっていると言えます。こうした中で、ショートドラマはプロモーションにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
■成長を続ける理由 ―ショートドラマ施策のメリット
ショートドラマの特長は「ストーリー性があるため、離脱が起きにくい」ことにあります。それは、広告視聴維持率の高さにつながり、視聴時間が長いほどにレコメンドされやすくなり、有利に働きます。また、汎用性のあるジャンルですので、脚本次第で様々な商材に対応できるうえ、テレビCMやYouTube広告より低コストで、認知を獲得しやすいことも大きなメリットです。
ショートドラマは参加・対話型コンテンツとも言えます。TVドラマと違い、気軽にコメントできるため、ユーザーは“自分ごと化”するように感情移入していきます。コメントが増えることでもレコメンドされ、数値面に好影響が期待できます。自身の体験と重ね合わせたかのようなユーザーの熱量高いコメントの数々は、コンテンツのアップデートに向けて非常に有益です。定量面でも定性面でも反応を得られるため、ショートドラマの品質は着実に上がっています。そして、市場自体も成長を続けており、ますますの拡大が見込まれています。
■ブランドリフトに向けて ―事例に見る施策設計
「若い世代に共感型持続性のあるコミュニケーションを図りたい」―UQコミュニケーションズ様からのご要望を受けて着手した、モバイルルーターの認知向上を目的とした施策では、「#ひとりじゃないみたいだ」というテーマを掲げ、一人暮らしの不安に寄り添ってコミュニケーションを豊かにしてくれる『WiMAX+5G』の存在感を描き出すことに努めました。フォロワー数約1千万人のインフルエンサーを9組集めて、出演者が異なる5つのドラマを、いずれも2話完結で展開し、訴求度合いなどにも変化を持たせることで、どのようにすればユーザーに響くのか、じっくりと検証できました。また、出演者それぞれのアカウントのタイアップ投稿で「いいね!」の数を競い、最も支持を集めた出演者はウェブオリジナルCMに出演できるという、ファンの気持ちに火をつける参加型イベントを実施しました。こうしてエンゲージメントを強化しながら、ドラマとの掛け算式で認知と共感を深めてもらえるように施策設計し、広告もクリックの遷移先をタイアップにしたり、ショートドラマにしたりと工夫を重ね、好循環を生み出しました。20日で約1千万回再生され、TikTok内の調査でもブランド想起と認知の両項目で平均の2倍超の結果が見られ、リフトアップできました。
ブランドリフトに向けた重要指標のひとつに「6秒時点での視聴維持率」が挙げられます。例えば、Wi-Fiの幽霊が主人公に話しかける不思議な冒頭シーンで視聴者を惹きつけることで、6秒時点の視聴は平均値より3.5倍も高い結果が出ました。ちなみに幽霊の名は『WiMAX+5G』。ブランド名をそのままに認知を図り、エンゲージメント率も目標値の132%に達しました。ドラマで商品名の訴求を図り、タイアップ動画では商品機能の訴求に重点を置くという二軸の進行が成功の要因ですが、やはり“広告だけど面白い”ことも欠かせません。
■課金モデルやTikTok Shopに見る、ショートドラマの可能性
BUMPやDramaBoxなど、課金型ショートドラマアプリをご存知でしょうか。1話課金型でどんどん続きを視聴できるコンテンツです。動画1本60~90秒ほどの長さですが、1作品30~40話に及ぶことが多く、中長期的なブランド認知に打ってつけです。また、アプリからの売上次第で制作費や広告費の回収も期待できます。つまりショートドラマ作品自体で収益を上げるビジネスモデルとして確立されようとしています。弊社は『あなたのことが死ぬほど嫌いです』という作品を制作し、本年5月のBUMP人気ランキング1位になりました。例えば、今後、こうしたコンテンツをプロダクトプレイスメントとして活用することもあり得ると考えています。
今、事業者はTikTok内にECショップを構えることができ、ユーザーは動画を視聴したその場で商品購入を決め、決済まで完了できます。まさに、認知から購入までが一気通貫しています。TikTokとコマースの組み合わせで、ユーザーに一層認知されやすくなるはずです。また、近い将来、TikTok Shopとショートドラマの組み合わせが可能になれば、ドラマで認知・理解を図り、TikTok Shopでの購入に誘うというように、フルファネルに近づいていきます。
■広告主と消費者と向き合い、最初から最後までやり切る
プロモーション戦略を描き、その実現に向けた企画を構成し、最後に視聴者に伝える演出を施す―これらを一気通貫で成立させることがショートドラマクリエイティブの要諦です。そうしたショートドラマは、TikTokにおける他の施策よりも、エンゲージメント率、平均視聴維持率ともに高い水準のKPIを設定することができます。
弊社は、企画・キャスティングから、撮影・編集・投稿まで、大体2カ月から2.5カ月ぐらいで進行しており、出演者のスケジュール調整などと並行して台本を練るには繁忙を極めますが、いかに上手く進めていけるかという点も、ドラマのクオリティに響いてくると常々意識しています。
そして、「広告主と消費者」双方の的を射たクリエイティブこそが、ショートドラマをはじめとする短尺動画において非常に重要です。生まれ続ける新しいトレンドとプロダクトを日々キャッチアップして施策設計することで、成果を最大化できます。
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