6月25日の雑誌幹事会では田島将太氏を講師に迎え、「データ分析が示す、Webメディアの成長戦略」をテーマに勉強会を開催いたしました。
「データ分析が示す、Webメディアの成長戦略」
田島将太氏(データアナリスト・メディアコンサルタント)
スマートニュース株式会社から独立後、複数のWebメディアのコンサルティングに従事。現在はhey株式会社のデータアナリストとして働く傍ら、データ分析を中心としたメディアの成長を目指すアプネア合同会社を設立。
ページビュー(PV)はどんな意味を持つのか?
PVはWebメディアのフェーズごとに構造が異なり、メディアの立ち上げフェーズでは、Webメディアを安定して運用することが重要なため、どれだけ多くの記事本数を安定して出せるか、ヤフーニュースなどの主要なタッチポイントでの表示回数、タイトルのクリック率を上げることが重要です。つまり
‟PV = 記事数 × 表示回数 ×クリック率(CTR)”と考えられます。
しかし、記事数の増加には限度があり、国内の主要な配信先は数社しか存在しないため、CTRを追求すると記事の実態が伴わなくなり、この運用は必ず天井にぶつかります。
エンゲージメントより、リーチを優先する
それではどうすれば良いか。立ち上げフェーズを過ぎた成長フェーズでは、“PV = 読者数 × 訪問頻度 × 回遊数”へ、PVの考え方を変え、記事ではなく、読者を中心に考えることで、邪悪なインセンティブに陥ることなく、読者目線でWebメディアを運用できます。
読者数 × 訪問頻度は、1カ月でWebサイトを訪れた総回数で、セッション数と呼ばれます。読者数(リーチ)、訪問頻度(エンゲージメント)、どちらを優先すると、セッション数を増やし、Webメディアを大きくできるのか? Webアンケートを分析すると、リーチに大きな差があっても、エンゲージメントはどんなメディアでもほぼ同じという結果が出ます。エンゲージメントを高めることは非常に困難なため、まずはリーチを増やすことが先決となります。読者数を増やすと、ライト読者が増えてファンであるヘビー読者が離れてしまうと考えがちですが、エンゲージメントは一定なため、むしろライト読者が増えるとファンも増えていきます。
強み・らしさを活かしてカテゴリを越境する
成長フェーズにある小規模のWebメディアほど、情報感度が高い層から読者に取り込んでいます。他メディアとの読者共有率が高く、Webメディアのカテゴリが全く異なっていても、読者は驚くほど重複しており、ブランドのファンではない可能性が高い。そのため、ブランドらしさや強みを、従来のカテゴリにとらわれずに越境して広めていくことで、リーチを伸ばすことができます。
また、メディアのブランドに対する認知度が高いと、選好度(プレファレンス)も高まるため、リーチを増やし認知度を高めることが必要です。さらに、Webメディアを大きく成長させるには、どのWebメディアも読みたくないと考えているマジョリティに対し、記事だけでは取り込めない層に伝達できる切り口や、表現方法を考え続けることが大切です。
Webメディアの組織と成長モデル
Webメディアの成長モデルの根源は、良質なコンテンツと、それを生み出す制作者です。次にコンテンツが読者の目に触れるタッチポイントに配信・運用されることで、読者が増えます。読者が増えると、認知度が高まり、アルゴリズムによって自動的に記事が読まれやすくなるサイクルが生まれます。
しかし、そうした読者は、Webメディアのブランドを意識していない読者でもあります。自社ブランドのファンを増やすためには、自社の記事やブランドを活かしたサービスが必要です。そこでファンが増えれば、高単価の収益を得られ、マーケティング投資や良質なコンテンツ制作に投資できる成長モデルが生まれます。
Webメディアの職能には、コンテンツ・プロダクト・経営の3つのレイヤーがあります。さらに、コンテンツのレイヤーではコンテンツ制作、コンテンツ伝達、コンテンツ選択に大別できます。Webメディアの編集者はコンテンツ制作と伝達を担わなければなりません。コンテンツの伝達は制作と同じくらい重要な一方、コンテンツの価値や面白さを端的に読者へ伝えるという、制作とは全く別種のスキルが要求されます。Webメディアの編集者に必要なスキルとは、読者を解像度高く理解し、読者にとってのプロダクトの良さを理解し伝えることです。どんな読者がいつ読むかなど、ターゲットを想定したタイトル付けをし、読者の反応を分析したうえでSNSの運用なども考えます。
次に、編集者とは異なる役割を担うプロダクトのレイヤーでは、表示速度を改善するなど、コンテンツの面白さを快適に読者に伝えること、コンテンツのブースターになることや、課金など2階建てのビジネスモデルを作り、読者の訪問頻度を高めることが求められます。ここで、快適で使いやすいWebサイトを提供できれば、訪問頻度を高められる可能性があります。経営のレイヤーでは、メディアブランドを成長させ、その資産を活かした動きが求められます。
このように、記者や編集者が良いと思えるコンテンツ作りをWebでも諦めず、その価値を読者目線で伝えていくことで、メディアの長期的な資産である「読者の記憶に刻まれたメディアブランドへの期待」や「良質なコンテンツを制作し読者に届ける編集者」を成長させながらPVを伸ばすことができます。
Webメディア編集者の伝達スキル
編集者がコンテンツの伝達を意識するうえで重要な要素として、タイトル、記事の構成、関連記事の選択があげられます。タイトルのポイントは、記事の価値を短い文字数で伝えて、読者へコミュニケーションを図り期待を喚起することです。また、興味を引くために、当事者意識をもってもらうための工夫や、アルゴリズムでどう評価されるかを考えることも必要です。
構成のポイントは、タイトルで喚起した期待をコントロールすることです。読者の期待に沿いながら深堀りすることで、新たな期待を呼び込みます。読者が離脱するのは、期待が満たされたときと、期待が裏切られたときです。
関連記事のポイントは、読者の興味を深掘りすることです。同じ記事の追加コンテンツ(写真や動画など)、続編や前・後編など興味を持ったトピックの深掘り、そして公開日が古くても読者にとって関連性が高い記事、最後にどんな場合でも読まれるエバーグリーンコンテンツを選びます。
Webメディア編集者のデータ分析
データを分析する心構えとしては、数値の変化を追って満足せず、その理由についてインサイトを深めることが必要です。データは記者や編集者のセンスを磨くために使い、データで記事を変えるのではなく、記事の伝え方を変えるための感覚を養うことが重要です。データの違和感と理由を考えて、読者解像度を高めていけば、自然とPVも上げやすくなります。
また、PVが高い記事のリストを眺めていても読者の解像度はあがらず、コンテンツの伝達に意識が向かないので、制作(テーマ)を変えようという発想にしかなりません。それよりもどういう読者に読まれたかを見るほうが、伝達に意識が向きます。読者を理解するうえで、
①どんな読者が来ているか(性別、年齢、デバイスなど)
②フィジカル・アベイラビリティ(どこからいつ来ているか、物理的にどんな接点で記事と出会ったのかなど)
③メンタル・アベイラビリティ(なぜ記事を読み始めて、なぜやめたのか)-の3つが重視するポイントです。
つまり、一つの記事に対して多面的に情報を眺めながら、違和感や意外なポイントを探っていくことで、センスが磨かれていきます。
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