このたび、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)常務理事の植村祐嗣氏に、インターネット広告の課題についてご寄稿いただきました。
「インターネット広告の課題を乗り越える」
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)常務理事
デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)事務局
植村祐嗣氏
インターネット広告の課題
インターネット広告が始まって四半世紀を越えてきました。様々な規律や伝統があるマス媒体に対して、インターネット広告は自由さを特徴として広く使われるようになり、いまや取引額でテレビ広告と肩を並べるに至っています。この急成長に伴いここ数年、「自由の代償」として様々な課題が世界的に顕在化してきており、その解決が市場の急務となっています。
インターネット広告の課題とは、真っ当なアドバタイザーが巻き込まれる課題と、真っ当な広告メディアが巻き込まれる課題とに大きく分類できます。
前者は、広告効果に無効なトラフィック(広告配信やクリック等の反応)が結果レポート数に含まれたり課金されたりすることや、違法・不当なメディアやコンテンツに広告配信がなされてブランド毀損を招く(ブランドセーフティリスク)事象が代表的です。また、媒体面でのユーザーのメディア体験を損なうような広告掲載方法が、認知数やクリック率など見かけの効果指標は良好でも実態としてはブランドに対するユーザーの嫌悪感を招いている可能性があります。
一方で後者は、真っ当なメディアに違法・不当な広告が掲載されたり、ユーザーの端末に不審な挙動を発生させる広告が配信されたりという事象です。また、無効なトラフィックの原因のひとつとして、悪意ある第三者に巧妙になりすましをされて、真っ当なメディアが広告費を横取りされることも起きています。これらは、インターネット広告取引が参入の自由と自動化を優先したことや、国内外の多くの事業者間で取引が複雑に連携している結果として引き起こされています。
自由な市場は、小規模なうちは性善説に基づいて機能することがあっても、ここまで巨大な市場となると悪意や無知による発注や受注が紛れ込むことが避けられません。広告の取引や配信の自動化が進もうとも、人間が介在する以上は社会の縮図となります。IT技術やビッグデータを駆使しても犯罪的な介入は排除しきれず、まだまだ人工知能よりも人間の悪知恵のほうが上回っているという皮肉な状況が続いています。
JICDAQの取り組みとABC協会による検証
以上のような課題分類のうち、2021年4月に事業を開始したJICDAQが取り組むのは、真っ当なアドバタイザーと真っ当なメディアの間での広告取引に関する課題を解決するための「ブランドセーフティ認証」と「無効トラフィック対策認証」という二つの業務プロセスの認証です。認証に先立つ業務プロセス検証は、第三者性が確立されている日本ABC協会が行っています。
各事業者(媒体社、広告会社、アドテクノロジー提供事業社など)が関与している日々の膨大なインターネット広告取引の全てを監視することは不可能ですし、あらかじめ不正と明確に判定することが困難な事例もあり、リスクゼロは現実的ではありません。
とはいえ、無効トラフィック排除とブランドセーフティ確保を最大化する合理的な業務プロセスが、各事業者において規定され、実行されているかの検証と改善のためのアドバイスは有効であり、2021年11月1日以降に予定されているJICDAQ認証のスタートを目指して、日本ABC協会による検証活動が急ピッチで進められています。
マス媒体社の場合は、自社基準に沿った記事やコンテンツを掲載している限りはブランドセーフティ毀損リスクに対する責任体制が確立されていますが、無効トラフィック排除に関しては自社が直接関与しない広告配信におけるレポートや請求の正しさも管理する必要があります。
また、このような品質認証は世界で同時に推進されており、JICDAQも米英を拠点とするTAG(Trustworthy Accountability Group)と提携をしており、TAG認証を受けた事業者はその内容を日本においても同様の規準で実施している旨の宣言によって、国内でもJICDAQ認証されます。
健全なインターネット広告市場の確立
インターネットの自由度を守りながらも、犯罪的な行為や無知や怠慢、そしてデジタル技術への過信が引き起こす諸課題を修正し、健全な広告市場を確立していこうという活動は、国境を越えています。
このような活動の意義は、真っ当なアドバタイザーのブランド価値を守ることだけでなく、品質認証された真っ当なメディアや広告会社、アドテク事業者と優先的に広告取引が行われるよう誘導することによって、業界全体で不正を排除し、正当な広告費の流れを確保することにあります。
以上のように、インターネット広告の健全性の確保を目指し、多くの組織が連携しています。それは業界内では、広告ビジネスの品質と価値を向上させることが直接的な目標となりますが、広く社会全体に目を向ければ、インターネットが欠かせない社会において、社会全般の消費経済活動と全ての一般ユーザーのインターネット利活用の環境の品質を守り高めることにつながるのです。
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